日本のスクールカウンセリングは、まだ発展途上の教育制度です。世界の教育先進国では
スクールカウンセラーの公的資格が整備され、多くは学校の常勤職員として活躍しています。
日本では公的資格がなく、スクールカウンセリングの活動に近い専門性をもつ民間資格者を
スクールカウンセラーとして配置しています。しかし、各資格による専門性の違いやスクール
カウンセリングの活動基準があいまいなため、安定的な支援活動ができていません。
(スクールカウンセラーの公的資格ではありませんが、2017年9月に公認心理師法が施行され日本における心理職の国家資格が整備されています。文部科学省・厚生労働省の共管資格である公認心理師は、保健医療・福祉・教育・産業労働・司法犯罪分野の専門的知識及び技能を持って心理にかかわる活動をします。スクールカウンセリングを進めるにあたっても専門性を担保する重要な資格です。)
教育デザイン/学校発達心理研究所では、世界標準のスクールカウンセリングを日本の教育
環境に合わせて整備を進めています。教育委員会を中心に教員研修、スクールカウンセラー
研修などを開催し、日本における児童生徒支援の質の向上を目指しています。
世界標準のスクールカウンセリングはスクールサイコロジーを基盤として発展しています。
スクールサイコロジーは発達・心理・教育分野を統合した学校における児童生徒支援を実践する専門の学問です。そして、スクールサイコロジーを日本の教育環境に合わせて整備したものが実践学校心理学です。以下、実践学校心理学からのスクールカウンセリングについて解説します。
スクールカウンセリングは3つの支援活動を段階的に実践します。
@生産・開発的な支援活動
A予防的な支援活動
B介入・内在的な支援活動
日本のスクールカウンセリングでは「悩み」などのある子どもや保護者の相談が活動の中心
(Bの介入・内在的な支援活動)になっています。実践学校心理学では、学習や対人関係に苦手な
面をもつ子どもや情緒的に不安定な子どもが学校生活で困らないように、学校の経営計画を学
校長と共に工夫し推進します。(@生産・開発的な支援)また、学級の子ども全体を指導する学習
活動を行ったり、保護者への講演・教員研修を行ったり、学校に集う子どもたちが困難に直面し、
不安定になる前の支援活動に力を入れています。(A予防的な支援活動)
Bの介入・内在的な支援活動は最後の支援だと考えます。その理由として、学習や対人関係など
で「心の傷」を負ってしまうと、根本的な問題解決は簡単ではありません。たとえ、その問題が
解決したとしても、その後の人生に「何か」影響を残してしまうことが多いからです。特に、い
じめなどの人間関係のもつれには予防的に徹底的に学級にかかわることが大切です。したがって、
スクールカウンセラーの活動はとても能動的に、また、心理だけでなく発達や教育の専門性を兼
ね備えていなくては対応できないと考えられます。そこで、日本以外の世界の教育先進国ではス
クールサイコロジーを学問的な基盤としているのです。日本のスクールカウンセリングも世界標準
のレベルに早く追いつかなければなりません。(結果的に苦しむのは子どもたちだからです)
スクールカウンセリングには4つの具体的な仕事があります。
@アセスメント
A学校カウンセリング
Bガイダンス
Cコンサルテーション
スクールカウンセリングでは、アセスメントがきわめて重要です。子どもの状況を正しく理解し(見立て)、一人一人の支援や指導(手立て)を具体的に実施する教育活動です。
現在、日本のスクールカウンセリングではアセスメントを見立てだけで終わらせているケースが多いようです。しかし、本来は必ず具体的な支援や指導の方法を助言し、必要に応じて個別教育計画書や指導案に示し、保護者や担任と共に実際に支援・指導を行う手立てまでをアセスメントと言います。
(近年は、保護者学の観点から、保護者の支援や保護者との協働的な支援の質向上も求められています。)
見立ては行動観察、発達や心理の検査、保護者からの子どもに関する生育歴や環境などの情報、
担任からの学校生活などの情報、他の子どもたちからの情報、子ども本人との面接、子ども本人の
制作物(作文、日記、図工美術作品など)やテスト(学力テスト)からの情報などを精査します。
見立ては必ず発達・心理・教育の観点から行います。日本では心理の観点からだけの見立てになる
場合がありますが、スクールカウンセリングとしてはそれでは不十分です。
見立ての中でも行動観察は特に重要です。子どもの具体的な特徴をつかみやすく、他の情報と
比較しながら子どもの本質的な課題を発見するのに役立ちます。世界標準では、観察を「観る」
だけではなく、共通の評価シートで数値化することが重視されています。
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